人工膝関節の構造と役割
「変形性膝関節症」や「関節リウマチ」などの疾患によって、破壊され変形した膝関節の痛みのために歩く事が困難になったり、日常生活に大きな支障を来たすようになったりした患者さんに対して行われる手術のひとつです。関節の病気や怪我などの原因により、筋肉訓練や注射などの保存的な治療が効かない状態までダメージを受けてしまった膝関節は、症状が回復する可能性が低く、日常生活が制限されるほどの強い痛みを伴います。
人工膝関節はこの痛みを取り除き、正常に近い膝関節の動きを取り戻すために開発されました。症状の進んだ膝関節を人工膝関節に置き換える手術を、人工膝関節置換術といいます。
人工膝関節は主に4つのコンポーネント(部品)からできています。
- 大腿骨コンポーネント(金属)
→大腿骨の関節面の役割を果たします。 - サーフェイス(超高分子量ポリエチレン)
→脛骨の関節面の役割を果たします。 - 脛骨ベースプレート(金属)
→サーフェイスを支えるための土台として脛骨に設置します。 - 膝蓋骨コンポーネント(超高分子量ポリエチレン)
→膝蓋骨の関節面の役割を果たします。
手術について
今日、人工関節インプラントの素材・構造・耐久性など、技術面での進歩に加えて、手術を行う上で重要となる専用手術器械もめまぐるしく進化し、より患者さんの負担が少ない手術法が可能になっています。
かつての手術傾向は、執刀医がなるべく良い術野(視野)を確保できる様に、大きく切開するというものでしたが、その分関節を支える筋肉にダメージを与えてしまい、機能回復が遅れてしまうという難点がありました。
今日ではなるべく小さな切開で手術を行い、そのようなダメージを最小限に抑えようとする方法が開発されています。
この新しい手術法「MIS(エム・アイ・エス)」によって、患者さんの体への負担はより軽くなり、早期の社会復帰が可能となります。
メリット1 手術後の傷跡が小さくなります
従来の手術方法では、膝の上を約20cmほど切開して手術を行いましたが、このMIS法では約10cm程度の切開で手術を行う事が出来るようになりました。
メリット2 入院期間が短くなります
小さく切開するので軟部組織(皮膚等)や筋肉も早く治癒します。したがって、従来1~2ヶ月程度必要とされていた入院が2~3周間程度に短縮されます。
メリット3 リハビリを早く行うことができます
傷が小さくて痛みも少なく、仕事や日常の生活に早く戻ることで、入院費を含め負担を軽減できます。
MIS(エム・アイ・エス)とは
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関節への切開(侵襲)が少ない
一般的な人工関節置換術では15~20cm程度の皮膚切開を行い、更に筋肉・靱帯や腱など関節の周辺組織にも切開を加えて、充分な視野(術野)を確保します。
それに対して、本院で行っているMIS(エム・アイ・エス)法では、専用の手術器械を使用することで8~12cm程度の皮膚切開と、最小限の筋肉や腱などへの切開で視野を確保できます。
筋肉を切る量が少ないので、患者さんの痛みは従来法より少なくなり、回復も従来法より早くなります。 また、皮膚に残る傷跡が小さいという美容的メリットもあります。 -
術後リハビリテーションの早期開始が可能
MIS(エム・アイ・エス)法における大事なポイントは、皮膚における傷口の小ささよりもむしろ、その奥の筋肉などに対し極力メスを入れないことです。関節を動かす筋肉に大きく侵襲・切開加えると、筋力が落ちるために関節を動かす力が衰えます。
逆に筋肉にほとんど侵襲・切開を加えなければ、関節を動かすための筋力を高い状態に維持することができます。また侵襲・切開を加える量に応じて、痛みの度合いも変化します。
従来法で手術を行った場合、数日間は歩行器を用いた室内移動など限られた動きしかできませんが、MIS(エム・アイ・エス)法の場合、症状によって異なりますが手術翌日から本格的なリハビリテーションを開始することも可能です。手術後のリハビリテーションをより早く開始できるということは、手術後の安静により筋肉が衰えてしまうことを回避でき、より早く退院することが可能になります。 -
入院期間が短い
従来法では入院期間は1ヶ月以上を要する場合もあります。
しかし、現在のMIS(エム・アイ・エス)法で手術を行った場合、早ければ10日から2週間で退院することも可能となります。
早期退院が可能であれば、職業をお持ちの方や、長期間の留守ができない方でも、安心して手術が受けられます。
従来の手術方法とMIS(エム・アイ・エス)法で違わないことは?
体内で使用される人工関節インプラントの耐久性は今までと変わりないとお考えください。
したがって、手術後、人工関節の寿命をより長く保つための日常生活上の注意点などは変わりません。
※MIS(エム・アイ・エス)法は、必ずしも全ての患者さんに適用される手術方法ではありません。
患者さんの体型や骨の状態、その他の健康状態により、この手術方法が適用されない場合もあります。
その他、ご不明な点は当院整形外科外来にてご相談をしてみてください。